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#Plug-in house

概要:

コンセントハウスの制作は、電化美術(青野信仁・秋山慶太・栗野正雄・中田裕士)とFabLab Kitakagaya(白石晃一・松本薫)の共同チームで行われた。
この作品の特徴は以下の3点であり、室内空間の設計を中心とした、生活にものづくりをしなやかに溶け込ませた新しいライフスタイルの提案である。

本作品は、千島土地株式会社からの依頼で、大阪市住之江区北加賀屋2-5-45にある元鉄工所社宅のリノベーションプロジェクトAPartMENT【8 ARTISTS PROJECT】の1室として制作された。
2016年3月19日にオープンし、現在は入居者と共同でアイテム開発を進めている。

組み替えによる可逆的カスタマイズ:

従来の賃貸物件では平面的に家具の配置を変えることは可能だが、壁や天井に大きく傷をつけるような設置が不可能な物件が多く、 自身のライフスタイルから生まれるニーズを満たして、サイズ感も適当な既存の家具を見つけ出すことは、多くの人が苦労している部分なのではないだろうか。
また、現代人は電気に支えられた生活を行っているため、電源の供給可能位置に家電を配置しなければならず、このことが生活動線に与える影響は大きい。
我々は、このような現状を生活の不自由さと捉え、居住者がカスタマイズ(模様替え)を簡易に行えるようにするというコンセプトを基に、 電源供給するため室内に従来から設置されている「コンセント」に、接続パーツとしての機能を追加し、グリッド状に配置することで室内の家具配置の拡張性をもたせるという設計を行った。
基本設計のイメージは、電子工作の試作などに使用されるブレッドボードであり、物件にダメージを与えずに可逆的な入れ替えが可能で、実験を行うようなイメージで模様替えを行えるというスタイルを重視している。 グリッドの間隔は450mmピッチで、北向きの部屋には壁面89個、天井面84個、南向きの部屋には壁面110個、天井面117個、合計400個配置され、 すべてのコンセントで吊り下げや引っかかりの荷重に耐えるため、抜け止めコンセントを使用した。
室内のコンセントは横方向縦方向ともに1つおきに活線(AC100V)が接続されており、それぞれの壁面、天井面ににスイッチを設置し、壁単位で電源の入切が行える。
また、台所にも一部ダミーコンセントを配置しており、開き戸のつまみやタオル掛けなどを追加することが可能になっている。
室内のすべての施工は株式会社POS建築観察設計研究所が行っている。設計段階から実現性や施工方法など綿密にやり取りをし、設計意図を適切に吸い上げていただき、完成に至った。

株式会社POS建築観察設計研究所

3Dプリンタを用いたパーツの作成:

前述の通り、自身のニーズを満たす既存の家具を見つけ出すことは難しく市販品でまかなえない場合、 解決のひとつの方法として家具の個別最適化があり、昨今のDIYにおけるトレンド「デジタルファブリケーション」は、その要望をまかなうことができる。
今回は特に、小型で廉価な3Dプリンタを利用することで、個別化された家具やパーツを少量または中量で生産することができ、 新たなアイデアを形にするという点においても簡易に行える。
発表時には3Dプリンタを持ち込み、生活家電として室内に置かれるというひとつのあり方を提示した。
2016年9月時点で、このプロジェクトのホームページに公開されているコンセント接続家具・パーツは9つ公開されている。
この試みにおいて、他の素材をいかにコンセントと接続できるかが、家具や部品のバリエーションを増やすためには重要であり、内容は随時更新予定である。

3Dデータの公開と蓄積と改変:

デザインしたパーツをプリントするためのモデリングデータは3D CADを使い制作され、クリエイティブ・コモンズライセンスをつけて公開されている。 このようなかたちでデータ公開をすることで、居住者がデータを扱い始めるポイントを自由に選択できるというメリットがある。
複製をしたい場合、欠損したパーツを修繕したい場合などは、ダウンロードのみで出力用のデータを手に入れることができ、 特定のパーツを基に発展させるアイデアを持っていれば、ダウンロードしたデータを元に改変が可能である。
3D CADはAutodesk社製のFusion360という、非営利目的であれば無料で使えるソフトウェアを利用し、 居住者がデータを扱う際にできるだけコストを抑えられるように制作環境を設定した。
このような環境を整えることで、我々が用意したデータが改変されて、そのデータがさらに共有され、また改変されるというサイクルが生まれることに期待している。

ものづくりがとけこんだ生活

我々はコンセントハウスを通じ、3Dのモデリング技術をリテラシーとして持ち、生活家電として3Dプリンタを使うという少しだけ先にある未来の生活像を創造した。
居住者のライフスタイルや興味・経験にあわせ、複数のポイントからものづくりにアプローチできる環境を考えることで、 地域を往来して住みながら学ぶという機能を持った実験的な住居。これらすべてがコンセントハウスで私たちが提案するライフスタイルである。